【完】孤独な闇の中、命懸けの恋に堕ちた。
地獄のような光景がやっと終わって、2人は息を荒らげていた。
父さんはベッドに倒れ込み、母さんを殴った真っ赤な拳を天井に向かって突き上げて、息をすることさえ忘れた屍(しかばね)のように口を閉ざした。
「あっ、」
力が抜けてその場で尻もちをついている俺を、部屋から出てきた母さんが驚いた顔で見ている。
...最悪だ。
「らん、」
「かあ...さ、ん」
「ずっと見てたの...?」
「...」
言い訳する?
してなんになる?
俺は黙って頷く。
母さんは一瞬泣きそうな顔を見せたけど、ぐっと堪えて俺の前にしゃがみ込んだ。
「蘭、覗いちゃダメでしょ?」
「でも母さん...っ!父さんにっ!!」
冷静ではいられない俺の口を、母さんは右手で押さえて、左手の人差し指を母さん自身の口元に持ってきた。
「しー...。
父さん、今冷静じゃないから。蘭が見てたこと知ったら、また取り乱しちゃうわ。」
「母さん...っ」
「蘭は優しいね。
母さん、蘭のこと好きよ。
蘭だけが母さんの支えなの」
「...鈴...よりも?」
「鈴のことも大事だけど。
母さんはね、蘭がいるから生きていられるの。
母さんには蘭がすべてなの」
「...っ...」