【完】孤独な闇の中、命懸けの恋に堕ちた。
何度引っ込めても、抗う様に手が玄関の方に伸びてしまう。
そして、俺はいつの間にか玄関の前に立っていたんだ。
「百目鬼さーん!!聞こえるー!?
大丈夫ですかー!?」
「...っ」
なあ、今叫んだら
あんた、助けてくれんのかよ?
ボロボロな俺の姿を見てドン引きして、それでもそんな俺に同情してくれんのか?
優しさに飢えていた。
忘れていた、自分がまだ中学生だってことを。
息苦しいだけのこの世界から脱出したい。
そう思いながら、俺は玄関の鍵を開けて、光のある場所に手を伸ばそうとした...が。
「蘭、駄目じゃないか」
その光は、汚れた俺の目の前なんかにはやってこない。
「ぐっ...!?」
いつの間にか背後にいた父さんが、俺の口を手で押さえて。
玄関前に立ってる隣人に聞こえないように、物音ひとつ立てずに1番奥の部屋に俺を引きずっていく。
俺は泣きながら手を伸ばした...
だけど、視界から玄関が遠ざかっていく...。
俺は無力だ。
そして、俺の悲鳴を聞いて駆けつけた隣人も、何事もなかったかのように去っていく。
望みが消えた瞬間だった。