【完】孤独な闇の中、命懸けの恋に堕ちた。
突然元気がなくなる蘭君。
その気持ちを察して、私も黙りながら彼の隣を歩いた。
"鈴"
その名前を口にしてはいけないことくらい分かっていたのに。
いや...もしかしたら私は薄情な人間なのかも。
蘭君の過去なんか思い出したくもなくて
さっきまで蘭君の弟の存在を忘れていた。
...私がいるのに。
だって今更、蘭君を傷つけた過去なんかに気を取られてほしくなかったんだ。
「...蘭君」
「分かってる」
「...」
「その"鈴"じゃないことくらい、分かってる。
だからあんまり気にすんな。
無理矢理言わせたのは俺だろ?」
「...うん」
鈴君の名前が、蘭君の大っ嫌いな弟と被っていることなんか、蘭君にも鈴君にも関係ない話だ。
だけど...
彼のトラウマを刺激してしまったことに、深く後悔。
やっぱり意地でも言わなければよかったのかな?
でもそれはそれで蘭君が怒りそうだから
仕方がなかったのかも。
秋風に背中を押されながら頭の中で言い訳してしまう私を許してほしい。
ちょっとだけ...鈴君と関わるのが怖くなった秋の帰り道。
不自然に瞬きをしながら、アパートに着くまで蘭君の顔を見ることが出来なかった。