ヘタレなボクが愛した人
ある日、ボクらは閉館後の麗華水族館に来ていた。

リハーサルを兼ねた下見の為だ。

館長さんが凄く喜んでくれて今回のこのライブが実現しようとしている。

中に足を踏み入れた皆は思わず呆然と立ち尽くしていた。

そこから、しばらくして、音響やらの準備を整え、演奏を始めてみた。

生き物たちがあくまでメイン。その、メイン水槽の前での演奏になるため、やんわりになるように心がけた。

リハーサルは無事終わった。生き物たちに悪影響は無さそうだ。

スタッフたちからは盛大な拍手で迎えられた。

そして、ボクたちは気分良く、水族館を後にした。

皆はそれぞれに散り、ボクと優が残された。

並んで歩きながら、ボクはありさちゃんのことを聞いてみた。

深くは教えてくれないけど…悪くは言わなかった。

家についたボクは、ありさちゃんにLINEを送った。

『今度ボクのライブに来てくれませんか?』って。

『いいの?嬉しい〜楽しみ!』と返事が来た。

『麗華水族館でできる事になったんだ!』とボクが送ると、

『ホント?良かったね!さすが優だわ』と嬉しそうに返ってきた。

それだけで充分だった。

『日程はまた連絡します』と送るとスタンプが返ってきた。

ふと、「どこか寄っていきますか?」と優に聞かれた。

「いえ、今日は道場に、行くから」とボクは断った。

優は必ずと言ってもいいほど、ボクを色んな所に連れて行ってくれる。お店に行っても支払いはボクはしたことがない。

それは嬉しい話なんだけど!年上としては複雑な気持ちになる。

「道場…行ってるんだ?」と優、

「ん、ボクの指導員は雪弥さんだけどね」とボクが言うと、

「あの人、そんな資格も持ってんの?」と優はとても驚いていた。

そんな顔を見ながら、ボクは少し誇らしく思った。

ボクは、優に、挨拶してその場を去り、道場に向かった。

「こんばんわ〜宜しくお願いします」とボクは言って、道着に着替えた。

雪弥さんはすでに待っていてくれて、他の人はすでに練習を始めていた。

雪弥さんの丁寧な指導のもと、ボクはトレーニングに励んだ。

数時間の練習を終えて、ボクたちは、家に帰る。

雪弥さんはボクを家まで送ってくれたが、お姉ちゃんが待ってるからと自分の家に帰っていった。

久しぶりにボクは一人で食事する。

両親は海外に永住を決めてしまい、ボクは1人暮らし。

お姉ちゃんは近所に雪弥さんと一緒に住む家を建てた。

近くだからお互いに行き来することはよくある話だけど…最近は特に皆と一緒に過ごすことが多くて、一人の食卓は寂しい。

そしてボクは気づけば優に連絡していた。

『1人ご飯寂しい』って。

速攻返事してきた優が来てくれることになった。

優は実家でありさちゃんや、お父さん、お母さん、みんなで一緒に暮らしてる。

たまに羨ましかったりして…きっと賑やかな食卓なんだろうな。
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