ヘタレなボクが愛した人
なんとかファンたちを切り抜け、ついた場所は小さなライブハウスだった。

え?ここ?

「少し挨拶してくるわね!」とありさちゃんは言って、ボクを置いていく。

しばらくして戻ってきたありさちゃんはスッゴい笑顔で、

「ゴメーン!お待たせ!行こ」とボクの腕を引っ張った。

そしてボクたちは中に入る。

「ありがとー!今日は皆来てくれてー」とボーカルが挨拶をする。

って近くない?!こんな距離で演奏するの?

演奏が始まった。荒削りで充分な演奏とはとてもじゃないが言い難い。

けど。歌詞がストレートでスーッと心に染み渡るような曲だった。

曲の荒らさを美声と歌詞が補ってる気がした。

ミスったと思われる箇所もキレイなアレンジで見事カバーしている。

そんな曲にありさちゃんはうっとりしながら大興奮!

「キャー見て!あのドラムのEIGIカッコいくない?」と隣にいるボクの肩をバシバシ叩く。

確かに格好いいよ。けど、メチャクチャ不愉快だ。

ボクの方がいい演奏してるはずだし、人気だって劣らないはず。

ましてや相手はインディーズじゃんか…

ボクらのほうが格好いいに決まってる!!

なのに何で?皆が大興奮なのはいい。好みはあるし、ファンなんだろうから。

けど、ありさちゃんがテンションあがって、ボクにあのドラムが格好いいって言うのは正直辛い。

だからボクは心が狭いって言われるのかもしれないけど。

ボクは笑ってごまかした。というより、耐えた。

ライブは無事終わり、お客さんたちは帰っていく。

まだ興奮しきっているありさちゃんはステージに上がってしまった。

「お疲れ様ー!すごくよかったよ。メジャーデビューも決まったのよね?オメデトー」とありさちゃんが言うと、嬉しそうに笑いながらありがとーございますって照れながら頭を下げてることにまた腹がたった。

ボクはとりあえず、ビジネススマイルを張り付けたまま、軽く睨み付ける。

「ね、順也さんも良かったって思うわよね?」といきなりありさちゃんはふってきた。

なんて答えていいか、分からない。

ボクは渋い顔して「別に…」と言ってみた。

「どこがダメでしたか?」と今度はボクに視線を向けてくるメンバーたち。

「歌詞は確かに刺さったけど、曲調が少しずれてたし、ダサイ」気づけばボク、そんなことを言っていた。

その為、「それはどの曲のどの部分ですか?」と深く聞かれてしまった。

ヤバイ…少し適当に言ったかもしれない。

全部を全部ちゃんと聞いていたわけではなかったから。

ボクは悩んだ。

「ね、順也さんちゃんと教えてあげてよ?この子ら、私の事務所の後輩なのよ。今度メジャーデビュー決まったからから、うちでもかなり推してて」とありさちゃんは言った。

そーゆうことか。だから、挨拶…

もしかして最初からそのつもりでボクをここに?

ヤキモチ妬かすためじゃなくほんとに悪気なくの天然?!

そう解釈したボクは少し楽になり、

ステージに上がった。

そしてレクチャーした。

この曲はこうが良かったんじゃないかと。

ドラムを叩きながら。

そしたら『おぉー』と歓声が上がった。

「さすがね。順也さんとここにきて正解だったわ」と言われたので、ボクは少しホッとした。

「ごめんね!そろそろ行くわね」とありさちゃんは言ってボクの手を引いて、ライブハウスを出た。

「さっきはごめんなさい。順也さんの気持ちも考えずに…」と思いきり頭を下げて謝ってきたありさちゃん。

「ボクこそごめんね。何も知らなくて。けど…あのバンド気に入ってるのは間違いないでしょ?」とボクが言うと。

「…波長がね…。合うのよ。あの荒さが彼ららしてくて好きなの。REIYARとはまた違う魅力があるなって」とありさちゃんは言う。

「…そんなこと…わかってる。ボクにだって好きなグループぐらいいる。けど…ドラムがカッコいいって言うのは反則」とボクは言って怒るようにほっぺを膨らませた。
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