世界でいちばん幸せな僕たちは



ふと、目が覚める。窓からは燃えるようなオレンジ色の光が射し込んでいた。なんだかとても不思議な夢を見ていたような気がする。夢の中で不思議な感覚に包まれながら、失望していた気がする。でも、もう思い出せない。

なにかを。大切ななにかを、忘れている気がする。完全に脳や身体が起きて思い出すまでに、十数秒かかった。そうだ、夕食の約束。あと4分で午後6時を回ってしまう。

はっとしたように飛び起きて2階に行き、クローゼットから目についた上着を取り出した。ファッションにこだわりはない。着られればそれでいい。午後6時まで、もう時間がない。

スマートフォンをスピーカー状態にして、着替えながら急いで母に電話をかけた。

「あ、母さん?」

『どうしたの?』

「昼寝してたら寝すぎた。今準備してるけど少し遅れる」

『仕方ないわね。それじゃ主役らしく、スマートに合流すること。いつだって主役は格好よく登場するものよ。みんな待ってるんだから、気をつけて来てちょうだいね』

「うん、わかってるよ」

ドラマ好きの母らしい反応だった。

通話を終了し、スマートフォンをジーンズのポケットに突っ込む。靴を履き、玄関を出て乱暴に鍵を閉める。きちんと閉まっているかどうかの確認をしないまま、レストランのある方向へ走った。今は、少しでも早くレストランで家族と合流することが最も重要だった。昨日降っていた雨はすっかり止んでいて、道路のいたるところで水たまりが太陽の光を反射していた。街はとても輝いている。


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