雪と断罪とそして、紅
「何?」
「たまには俺にも構ってくれませんか?」
婚約者の兄さんが死んで、アリスさんの婚約者は俺に変わった。
でも、それが決まったのはつい最近のことで、アリスさんの母親である三月さんが病に倒れてからだった。
亡き人を思い続ける娘を心配した三月さんが俺を婚約者に据えたのだが、アリスさんは乗り気ではないらしく……。
「今、忙しいからそのうちね」
アリスさんは俺から視線を外すと再び白い紙に向き合う。
……何かぞんざいな扱いだね。
俺は肩を落とすと、お茶でも入れようとミニキッチンへ向かおうとした。
「ごめんね、和泉。まだ他の人を好きになれる気がしないんだ……」
後ろから彼女の悲しそうな呟きが聞こえる。
彼女がまだ天河を想っているのは分かってる。
別に兄さんや天河を天河を忘れてほしいとは思わない。
俺は想い続けてる人がいてもそれを引っくるめて、彼女を大切にしたいから──。