雪と断罪とそして、紅
「此処にいらっしゃいましたか、楊お嬢様」
私は蘭の花が咲き誇る屋敷の中の庭園にいた。
此処で蘭の花が見れるのも最後だ。
広い屋敷と庭を手放し、負債の返済に当てる為この庭園に足を踏み入れられるのも今日で終わりだ。
「私はもうお嬢様じゃないぞ、瀧澤」
使用人ももう瀧澤以外いない。
瀧澤はあんなお父様に対して恩義があるらしく、使用人を辞めようとしなかった。
私が軽く瀧澤を咎めれば、「申し訳ありません」と瀧澤は肩を萎縮させる。
何故、こんなことになったのか分からない。
何故、あれだけ好調だった邉巳の業績が急激に悪化した?
理由は誰にも分からなかった。
私は目の前の蘭の花を指先で撫でると、小さく息を吐く。
「楊お嬢様は蘭がお似合いですね」
ふと、瀧澤は突拍子もなくそんなことを言う。
蘭の花が似合う?
そんなことを言われたのは初めてだ。