雪と断罪とそして、紅
「……彼が憎い?」
すると、狐のお面を付けた男がゆっくり私に近付いてきた。
この男はこの遊女屋の主。
私に体を売らせようとする男だ。
でも、私にはそんなことどうだって良い。
彼が憎いかって?
そんなの決まってる。
「憎いに決まってる。殺したいくらいに……」
奴が憎しみで私を陥れたように、私も憎しみで奴を陥れてやりたい。
でも、それは今の私には叶わないことだ。
「なら、力を貸そう」
「え?」
狐のお面を付けた男はそれを外し、妖艶な笑みを浮かべる。
男は今まで会ったことがないくらい端麗な容姿をしていて、今まで見たことの無い赤い瞳を持っていた。
「僕の名前は切碕。君が彼を殺したいと願うなら僕が手を貸してあげる」
その端麗な容姿をした男──切碕は私の目の前にしゃがむとスッと目を細めると、私の頬に涙が静かに伝った──。