雪と断罪とそして、紅
風魔の彼には何度か会ったことがあるが、彼は根本的にこの役割には向いていないように見えた。
彼は優しすぎるんだ。
人を殺すことを何よりも拒み、殺すくらいなら名前なんて要らないと思っているんだと思う。
「困ったものだ。役割を担ってもらわなくては存在意義がない。このままでは一生名無しだ。……まあ、誰かのように名をもらって目覚める者もいるが」
三月様の冷たい目が赤目の彼を捉える。
え、どういうことだろうか?
私は彼とは産み出された時期が違うから接点が少なく、生まれてから此処にずっといるというのに初対面だ。
でも、言葉の意味的に──。
「ママ、ヒカリをいじめちゃ駄目!」
すると、私の思考はアリスちゃんの声で止まった。
耳を触っていた感覚はいつの間にか無くなっていて、アリスちゃんは目一杯に涙を溜めて三月様に睨んでいた。
そして、終いには声を上げて泣き出してしまう。
そんなアリスちゃんを抱く赤目の彼は小さなお姫様を泣き止ませようと、優しく背中を撫でている。
「僕はいじめられていないよ、アリスちゃん。だから、君が泣く必要はないんだ」
端から見れば、その光景は子をあやす親のようにも幼い弟妹をあやす兄姉のようにも見える。
でも、二人から……赤目の彼から感じるのはそれとは違う気がした。