雪と断罪とそして、紅
それから10年の時が過ぎた頃。
「おかえり、安倍さん。って、僕のこと覚えてる?」
ボストンバッグを片手に研究所の門を潜ると、頭上から声がした。
顔を上げれば、門の傍の木の上で赤目の彼が私を見下ろしていた。
10年前に見た容姿と彼は微塵も変わっていない。
私達作られた人間は他の人より成長スピードが遅いが、彼は遅いというより止まってしまっているようだ。
彼の容姿は二十歳くらいの青年のまま、止まってしまってる。
「ただいま戻りました。もちろんですよ、切碕ヒカリさん」
此処を離れる前に私は彼のことを調べた。
切碕潮とは同じDNAから作られた姉弟のようなもので名前は切碕ヒカリと言い、ジャック・ザ・リッパーのDNAを持つ者。
「忘れられてなくて良かった。それにしても、10年間も地方に出向させられるとか災難だね。まあ、それだけ君は有能で裏切らないと信頼されてるということなんだろうけど」
彼は満足に頷くと軽い足取りで木から降りると、赤い目をスッと細めた。
その笑みは変わらない容姿とは裏腹に、10年前とは変わってしまっていた。
優しさは消え、何処か残忍な雰囲気だった。