雪と断罪とそして、紅
「僕にとってアリスちゃんは光だ。暗闇から僕を助け出してくれたアリスちゃんが誰よりも大切で、誰よりも愛しい」
あ、そうか。
昔見た彼の眼差しは親が子に向ける愛情でも兄姉が弟妹に向ける愛情でもなかったんだ。
彼が彼女に向けるそれは愛しい人へ向ける愛情だったんだ。
「でもね、彼女は僕のモノにはならない。彼女は僕を見てくれない。……好きな人がいるからね」
彼の赤い瞳が見つめる先にはアリス様と婚約者の少年がぎこちないながらも手を繋いで歩いて行った光景がある。
「まあ、僕を見てくれないなら見てくれるように仕向けるだけだけどね」
「仕向ける?」
「大切な人を奪えば良い。そうすれば、彼女は僕を見る」
嬉しそうに笑っている彼に、私は言葉を失う。
奪うということは彼は彼女の婚約者を殺すつもりなのだろう。
彼女が彼を見ると言ってもそれは愛情ではない。
大切な人を奪った者へ向ける憎悪だ。
そんな感情でも彼女に見てもらえるなら彼は良いのかもしれない。
それだけ彼にとって、アリス様は特別で愛しい存在なのだろう。
「……君は僕の言葉を聞いてどう思う?止めるかい?」
赤目の彼の目が今度は私へと戻される。
止める?
そんなの決まってる。