雪と断罪とそして、紅
「《摂紀》?」
彼は生まれたばかりの我が子を抱きながら子の名前を口にする。
「いい名前だね」
摂紀を抱きながら小さく笑った彼だけど、何処か影を感じた。
影を感じるようになったのは最近だ。
元々彼と会えるのは月に一回か二回だったのに、最近は二ヶ月に一回と回数が減っている。
影を感じることと会える頻度が少なくなったことに何か関係あるのかな?
「ねぇ、いい加減教えてくれない?貴方は何者なの?」
「……内緒だよって言ってるよね?知ったら紀生は僕から離れていく」
彼はあたしがもっと彼を知りたいと望んでも、何も教えてくれない。
あたしが摂紀を産んでも彼と籍は入れてないから摂紀は私生児扱いだ。
父親が目の前にいるのに……。
「あたしは離れていかない!だから──」
「……時間だから帰るよ」
彼は摂紀をあたしに抱かせると、狭く古ぼけたアパートから出て行った。
「変な感じ……」
彼の様子が変なのは一年後に摂紀の弟になる律生が生まれても変わらず、寧ろアパートに来る回数も減ってしまっていた。
そして、摂紀が五歳に、律生が四歳になる頃には彼はあたし達の前に現れなくなってしまった──。