Flower love
それからしばらくして、人込みが少ない神社の石段に二人して座った。
「ふー。少し疲れたな」
ラウルはそう言って腕を空高く上げる。
「でも、すっごく楽しいよ」
あたしはにっこりと笑ってこう言った。
そうそう、いつも家に帰っても一人だし。
あたしの生活の中で、多分バイトにいる時間が一番楽しいのかも知れないな。
きっと、あの花屋にいることがあたしの生きがいなんだ。
「なら良かった」
ラウルも同じように笑ってこう言った。
そして、隣に買って置いてあったビールを一缶あたしに渡してくれる。
「ありがと」
本当はお酒は苦手なんだが、ラウルからのお酒なら喜んで飲む。
「ここさ、花火の隠れスポットなんだぜ。滅多に人来ねぇの」
ラウルはにっと笑ってこう言う。
「そ、そうなの? 何でラウル、こんなとこ知ってるの?」
あたしは目を丸くしてこう訊いた。
「ん、ほら、あの入院してた奴が言ってたんだよ」
「あぁ、あの幼馴染さん。来れなくて残念だったね」
「まぁな」
ラウルは苦笑しながらビールの缶を開けた。
しばらく沈黙。
あたしは気がつくとラウルの横顔を見つめていた。
それに気がつく度に、あたしは慌てて缶ビールに視線を落とす。
「……何やってんの?」
ラウルは不思議そうにあたしを見つめる。
「あ、いや、別に」
あたしは苦笑して誤魔化した。
「ラウルって、どうして俳優になろうと思ったの?」
そして、再びの沈黙に恐れてあたしはこんな質問をする。
ラウルは困ったような表情を顔を浮かべ、あたしを見ていた。
「何でって聞かれてもな。特に理想とか、夢とかそんなのなかったから」
「そうなの? じゃ、どうして俳優になったの?」
「何でだろうな?」
「いや、訊かれても」
あたしは苦笑する。
「気がついたらなってた。というか……親が目指してみればって提案したからかな」
「へぇ、でもラウルのお父さんとお母さん見る目あるわぁ。確かにラウル、かっこいいもん」
ラウルはあたしが言った台詞に反応し、飲んでいたビールをぶっと噴き出した。