Mermaid ~人魚姫の物語~
気がつくと空は少しずつ明るくなり始めていた。
私は砂浜にたどり着き、彼を砂の上へと寝かせた。
もし呼吸をしていなかったら、そう思うととても怖くなった。
恐る恐る彼の胸に耳を当てる。
ドクンッ...ドクンッ...
ゆっくりとした彼の心臓の音が聞こえる。
「生きてる...」
ほっと胸をなでおろす。
ふと彼を見ると眠っている彼の顔はとても優しかった。
「綺麗...」
そっと彼の頬に手をそえる。
「もっとあなたのそばにいたい...」
とつぶやいた時だった。
突然彼の手がそっと私の手に重ねられたのだ。
心臓の鼓動が速くなる。
彼はゆっくりと目を開け、私を見ると優しく微笑んだ。
私もつられて笑顔になってしまう。
温かい時間。
なんだか懐かしい気がする。
私たちはしばらくの間、見つめ合っていた。
すると
「海斗どこにいるの~?」
と遠くの方から女の人の声が聞こえて来た。
大変!
私は彼の頬から手を離し、急いで海へと戻った。
「海斗!」
誰かが彼に駆け寄って来た。
「姉貴...」
女の人はびしょびしょになった彼を見ると
「大変!早く家へ戻りましょう!」
そう言って彼をゆっくりと立ち上がらせた。
「海に...落ちたんだ...」
と彼は駆け寄って来た女の人に言った。
「えっ...?」
「女の子が助けてくれた。彼女はとても美しかった」
そう言って彼は海を見た。
急いで岩陰へと隠れる。
「何、バカなこと言ってるのよ」
そう言うと女の人は彼を支えながら歩き出した。
私は彼の姿が見えなくなるまで彼を見送っていた。
「私は...あなたの隣にいたい...」
私はそうつぶやき、海へと戻った。