ありふれた恋。
駅前は忙しく人が行き来していた。
みな何を思って会社や学校に向かうのだろうか。
忙しいだけの毎日を生きることは酷く退屈に思える。
「じゃぁな」
陽介は別れる時のお決まりの挨拶を残し、駅の改札口へと消えた。
「ばいばい」
その後ろ姿が見えなくなるまで手を振る私も、いつもと同じ。
――の、はずだったのに。
「陽介くん?」
私の背後から甘い声が響いたと思ったら、良い香りが横を通り過ぎた。
香水を漂わせて女の人が、陽介の方に小走りで近付くと、
「おう」
改札を通る直前で、陽介も足を止めた。
「偶然だね。一緒に行こう」
「ああ」
「陽介くんが遅刻なんて珍しいね」
「たまにはな」
「そっか。ねぇ、課題やってきた?」