ありふれた恋。
「聞いてるのか?」
ちゃんと聞こえてるよ。
「ほら、立って」
腕に陽介の力が加わり無理矢理、立たせられた。
私は手間のかかる子供みたいだね。
繁華街の裏手にある駐輪場は人通りが少なく、通行人は見当たらない。
「沙樹、」
――サキ、
久しぶりに名前を呼ばれ、思わず陽介を凝視してしまった。
こんな時に名前を呼ぶなんて、卑怯だよ。
別れを決めた心が揺らぐ。
「愛すより愛されたいんだよね?」
珍しく優しい口調の陽介。
最後に駅で見掛けたあの女の人にもそんな優しい声を出すの?
「俺が沙樹を、愛してやるから。だからおまえは大丈夫だろう?」
諭すような言い方で、甘い言葉を囁いた。