ありふれた恋。
真っ暗な部屋で口を開くことも、言葉を交わすことがなくても、
同じ空間に陽介がいるなら不安という2文字は消し去られる。
だからこの空間を共有する私たちが
"恋人同士"になれならいいな、と
そんな高望みはしないよ。
「んー」
目覚まし時計が音を立て、陽介は上半身を起こした。
「目覚まし時計、かけておいてくれたの?」
11時59分に合わせられたタイマー音を聞いて、自然と笑みがこぼれる。
「あっ?たまたま」
そうか、この音は"たまたま"鳴ったのか。
陽介がそう言うのだから、否定はできない。
私と同じように、素直じゃない陽介が好き。
「それより、後30秒」
「私、もう18歳になっちゃうよ?」
陽介からの返事はなくて、静粛が訪れる。
こんなに近くにいられるのだから言葉なんていらない。
言葉という誤解を生む道具でしかないものが存在しなくても、私たちは大丈夫。
ちゃんと繋がっているから。
10、9、8………
3秒、
2秒、