ありふれた恋。
電話を終え戻ってきた陽介は先程言いかけた話の続きをするつもりはないらしく、早々にパスタを口にした。
器用に麺をすくう。食べ方まで綺麗だなんて育ちのいい人は違う。
「あんま進んでないな」
いっこうに減らない皿を見た陽介はフォークをラザニアへ伸ばした。
「一口くれ」
「あ、うん」
「こっちも美味い。パスタも食べてみ?」
恋人同士のようなやり取りはただ苦しいだけだ。
「陽介、これ食べて」
失礼だとは思ったがラザニアを陽介の方へおしやった。
「なんか食欲ないみたい」
「……大丈夫か」
眉間にシワを寄せ、私を見る陽介。
「寝不足が続いたから、疲れてるのかも」
嘘ではない。
「なんで寝不足?なんか嫌なことあった?」
「……陽介に会えなかったから」
迷う前に、本音が口から出た。
止めようがない、溢れ出す想いに蓋をする方法はないのだろうか。
「変なこと言うな」
「……」
頑張って発した言葉は、"変なこと"で処理されてしまった。
現実なんて、こんなものだ。
「自分の分くらい払えるよ」
「ほとんど俺が食ったんだから、気にするな」
「でも……」
結局、会計は全て陽介もちになってしまった。申し訳ない。
「ごちそうさまでした」
「ああ。早く帰ろう」
「…はい」
どこに帰るの?、と尋ねたらおかしいだろうか。
今夜も陽介の家へ泊まるという選択肢は存在しないようで彼は私の家を目指していた。