ありふれた恋。

「あなたの彼氏?」

「違う」

「泊まったりしているのでしょう?それなのに彼氏じゃないの?」

「うん」



私たちおかしな関係だから。


「そう」


普通なら泊まりに行くことを止めそうなもんだが、ここで引き下がるのも母らしい。

うるさいことをあれこれ言わないのが母の良さなのかもしれないけれど、時には構って欲しいなんて都合が良すぎるのかな。



「陽介くん、いい子だとお母さんは思うわよ」

「うん」



陽介のことを知ったような口ぶりだったが、嫌な気持ちにはならなかった。



「上、行くね」


自室に戻ろうと声を掛けると、母は立ち上がった。



「今晩は一緒に夕食とらない?」

「…………うん」



たっぷり間を空けて返事をしたのは、母と食卓を囲んだのがいつか思い出そうとしていたから。



「それじゃあ今晩は沙樹の好きなシチューにするわ」



久々に家族らしい会話をしたような気がした。



「買い物、行ってくるわね」

「いってらっしゃい」



一緒に行こうか?

そう言うことができれば普通の家族になれるのかもしれないけど、今の私にはまだハードルが高い。


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