ありふれた恋。
買い物に行く支度を始めた母を残して部屋に戻ると、タイミングよく祐太郎からの着信が入った。
「もしもーし」
ガヤガヤしている所で、大声を張り上げている祐太郎の姿が想像できた。
「今、どこー?」
「家」
電車のアナウンスが電車越しに聞こえた。祐太郎は駅にいるようだ。
「今から出て来れる?」
「今夜はちょっと」
母との先約があるんだ。
「なんか用あるの?」
「たいしたことじゃないよ」
「そんなら出て来いよ。隣町で祭りがあるんだよ」
「母と夕食、食べる約束したの」
たぶん私にとっては、祭りよりも優先しなければいけない約束だと思う。
「あ、そうか。それなら良いや」
私と母の不仲を知っている祐太郎はすぐに納得した。
「でもどういう風の吹き回し?」
「私にもよく分からない。でも陽介が私は母から逃げているって言ってたから。少しは向き合って見ようかなって」
「陽介さんか、」
いつも背中を押してもらってばかりだ。