ありふれた恋。
「陽介の分のイチゴもちょーだい」
「ああ、今日だけな」
ショートケーキの上にのせられたイチゴを奪い、一口で頬張る。今日が特別な日だから陽介がイチゴを譲ってくれたわけじゃない。
いつもいつも私の好きなものは、なんだかんだ言って取って置いてくれる。
素直でないその優しさは、陽介なりの愛情表現。
こんなにも私は陽介のことを理解しているのに、私たちの関係が永遠じゃないなんておかしい。
街中で手を繋いで歩く恋人同士のように、甘い言葉を囁やかれたわけでもなく、
一緒にいようと約束したわけでもないのだから、別れが来るのは当然のことなのだけど。
もしその"別れ"がやって来た時、私はどうすればいいのだろう。
「なに考えてる?」
フォークの手が止まった私を怪訝そうに見る陽介は、テーブルに肘をついていた。
「ううん、なにも」
陽介といれる大切な時間に、陽介以外のことを考えるはずがないのだから、
わざわざ尋ねる必要はないと思うんだけどな。
「陽介は今、なにを考えてる?」
「なんも考えてない。ケーキを食いながら、考え事をしなくちゃいけないのか?」
なにも考えていないというのも不公平だと思う。