ありふれた恋。
「おまえに恋を教えたことも、母親と向き合うよう進めたこともそうだけど、陽介さんの影響は大きいな」
「うん」
こんなにも他者を好きだと感じたことは初めてだ。
つまり、私の初恋。
あの陽介にされたキスだって
実はファーストキス。
そんな照れ臭いこと、本人には言えないけど。
「告白はしないわけ?おまえは退いてはみたが、進んではないわけだしな」
「進む?」
「このままの関係で辛くないわけ?」
痛い所を突かれた。
辛いに決まってるよ。
「今日ね、陽介の話しを聞いたの。好きな人がいるみたい」
ズキッと胸が痛む。
「だから?」
「え?」
「相手に好きな人がいるくらいでめげてどうする?諦めずに頑張ったから、結婚に結びついた人も沢山いるはずだ」
いつもまっすぐな祐太郎は、ぐすぐずしている私に苛立ちすら感じているかもしれない。
「告白してフラれた方が、すっきりするかな?」
「フラれるの前提かよ。最初から負けた気でいるより、少しは強気になれっつーの」
「私には無理」
「はぁ」
祐太郎の大げさすぎる溜め息が聞こえ、笑ってしまった。
「母とも陽介とも、向き合ってみるよ」
「ああ、頑張れ」
頑張れ、だなんて陳腐な言葉だけれど。
祐太郎の言葉だからかなんの抵抗もなしに心に響いた。