ありふれた恋。
一緒に行こうかという祐太郎の申し出を丁寧に断り走って教室を後にした。
待ち合わせは駅前の図書館。
陽介は調べたい資料があるようで先に待っている。
猛ダッシュで自転車をこぎながら、頭に浮かぶフレーズはどれも甘いものだけど。
こんなくさい言葉をちゃんと受け止めてくれるのだろうか。
冗談として受け流されてしまう心配の方が大きいけれど、それなら何度も言えばいい。
何度も何度も言って、本気の想いだと分かってもらえば良いだけの話だ。
なぜ急に決心がついたのか、祐太郎に不思議そうな顔をされたけれど、
それは……、
父の転勤先に、私と母も行くことになったから。
つまり、日本を離れることになった。
そのことはまだ陽介には秘密にしている(というか言うタイミングが見つからない)けれど、
サヨナラではなくて、もっと別の言葉を伝えるべきだと思うからほんの少し勇気を出す決心をしたんだ。
フラれたらフラれたで、海外で新しい生活を送るだけ。
そこには陽介はいなくて寂しいものかもしれないけれど。
断ち切れぬ想いを抱いたまま、海を渡るよりは、すっきりした気持ちで新しい土地に足を踏み入れたいのだ。