ありふれた恋。
「良かったな」
本を閉じテーブルの上を整理し終わると、陽介は腕を組んだ。
「家族なんだから分かりあえるはずだと思ってた」
「うん、陽介のおかげ」
「俺はなにもしてないじゃん」
「背中を押してくれたでしょ?」
「別に」
相変わらずクールな反応。
私が好きだと告げたら、この冷静さを少しでも崩すことができるのかな。
……いや、無理か。
「陽介」
「ああ?」
ぐずぐずしていたらまた気持ちが揺らぎそうで、さっさと本題を切り出すことにした。
「母との関係もそうだけど、いつも私は陽介の言葉に凄い勇気づけられてるの。たくさん力も貰ったし、ありがとうじゃ足りないものを贈られた」
「……」
あれ、この先……、何を言うんだっけ。
頭の中が真っ白になる。
人生初の告白は、
やはりシナリオ通りにいかない。
もういいや、
ありのままの気持ちを伝えれば。
「私、陽介のことが……」
掠れ、震えた声。
―――好き、です。
語尾は小さくなってしまったけれど、この静寂した館内で私の言葉は確かに届いたはずだ。
恐る恐る陽介の顔を見上げると、
とても不機嫌そうな顔をしていた。
告白の答えなど聞かなくても、その表情が全てを表しているかのようだ。