ありふれた恋。
「表、出るぞ」
陽介は鞄の中に本を詰め、さっさと立ち上がる。
「怒ってるの?」
「ここ、図書館だから」
あ、声のボリューム大きかったかな。
「ごめん」
「もっと時と場所を考えて」
困ったように陽介が言い、私の気持ちは沈む。
場所を選ぶべきだった。
洒落たカフェや、公園のベンチーーそこまで気が回らなかった。
「行くぞ」
陽介に手を引かれ、出入口に向かう。
自然な流れで繋がれた手に意識が集中する。
陽介の手はひんやりと冷たいが、対照的に私の全身は熱を帯びていく。
「俺んち行くぞ」
「……私、自転車で来た」
突然、
繋がれた手は、
恋人繋ぎに変えられた。
絡み合う指は、まるで私の意思のようだ。
陽介と離れたくないと、そう主張している。
「鍵、」
図書館の駐輪場から私の自転車を見つけ出した陽介は、鍵を催促した。
「あ、うん……」
キーホルダーのひとつも付けていない鍵を差し出せば、当然のことのように離れる手。
もう少し繋いでいたかったな、
無意識に手のひらに目線をおとす。
「やっぱ自転車は置いていこう」
「はぁ?」
「後で取りに来れば良いだろ?今は手を繋ぎたい」
「は?」
「自転車を押してたら、手を繋げないだろうが」
「……」
手を繋ぎたいという気持ちは同じだから文句の付けようがないが、
どうして陽介は私と手を繋ぐのだろう。