ありふれた恋。
「あまり期待させないで」
「ああ?」
そんな風に期待させるような行動を取られると正直、困る。
「期待すれば良いだろ」
「え?」
「あー、もう。調子狂う」
陽介はそう言って、私を引き寄せた。
「俺は時と場合を考えて、おまえを雰囲気の良いお店に連れて行った」
映画館の後に行った、あの高級なイタリアンのことを言っているのだろう。
「あんなに落ち着いた雰囲気が漂うお店で美味いものでも食いながらさ、俺から言うつもりだった。好きだ、って」
脳が陽介の言葉を上手く処理できないようで、理解に苦しむ。
誰が誰を、好きだって?
「それなのにおまえという奴わ…。庶民的な図書館でとは完全に告白するタイミングと違う時に……」
「……」
「俺から言うつもりだったのに」
――何を?
そう尋ねなくても、もう陽介の言いたいことが分かった。
陽介も私と同じ気持ちであると、自惚れても良いのだろうか。
こうして抱き締められていると、とても安心できて。
やはり私には陽介が必要なのだと、感じた。
「でももう、いいや。場所とかそんなの関係ねぇよな。好きなもんは好きなんだし」
投げやりの言い方なのに、どこか嬉しそうな陽介を見つめる。
「ばーか、上目遣いで見るなよ」
「じゃぁ、離して」
「嫌だ」
私も、本当は離れたくないよ。