ありふれた恋。
「キスさせろ」
命令口調の言葉に、首を横に振る。
「みんなに見られるよ?」
いくら駐輪場とは言え、人通りが少ないわけではないのに。
「図書館なんかで告白したおまえが悪い」
反論する間もなく、優しい口づけをされた。
しばらく離れることなく、
角度を変えて何度も行われる行為に、
うまく息することさえ、できなかった。
ただ、幸せだった。
これがまさに両思いになった瞬間だというなら、私はこの時を一生、大事にするのだろう。
「愛してる」
離れた唇は、
今度は甘い言葉をもたらした。
「付き合って下さい」
濁りのない真っ直ぐな瞳を向けられ、
泣きたくなる。
ううん、もう涙は止まらない。
嬉し泣きなんて初めてだ。
「泣く前に、返事しろ」
命令口調なのに優しい響きをもっていた。
「……はい。宜しくお願いします」
「幸せにする」
もう十分、幸せだけれど。
これ以上の幸せを掴むことができるのなら、どんなことでもしてしまいそうだ。
「泣くなよ」
「陽介、大好き」
「知ってる」
思わず二人で顔を見合わせて、笑い合った。
私たちは、
ここから始まる。
今、スタート地点にやっと立てた。
これからも臆病な私は、少しずつ成長していくと思う。
もっと成長して、素敵な女性にならなければ、陽介に釣り合わなくなってしまうから。