ありふれた恋。

屋上で母手作りのお弁当を頬張る。


「なにニヤけてるんだよ。気持悪いなぁ」


珈琲牛乳を飲む祐太郎に茶化されても、気にならないくらい私は幸せ。


「だってお弁当、美味しいんだもん」

「お袋さんの味だもんな」

「うん」


少し早く起きて作ってくれたお弁当は優しい味がした。

向き合うことによって、2人の関係がまた親子に戻れると知っていたらもっと早く、勇気を出せてたのにな。



「母もいつの間にか開いてしまった距離に困惑してたみたい。もしかしたら壁を作っていたのは私の方だったのかも」


「ふぅん。これ、もーらい!」


「あっー!!」



手掴みで玉子焼きを奪われ、祐太郎を睨む。



「陽介さんとは、どーなの?」


「今日もデートです」



語尾にハートがつくようなテンションで言えば、祐太郎に悪態を返された。

相変わらず、心地の良い場所。


母も陽介も、


私にとっては大切な存在だけれど。


祐太郎と共有する時間は、


一緒に笑い合える時間は、


何よりも、いとおしい。





「私がいなくなったら、寂しい?」



もう後1週間もしたら私はこの学校の生徒ではなくなる。

海を挟んだ国へ行くのは、やはり心細い。



「あー、どうだろうな」

「私は毎日、祐太郎に会いたいよ」



別れが辛い。



「遠距離恋愛は駄目になる確率が大きいらしいけど、ダチには距離は関係ないだろぉ」


「ちょっと、それって。私と陽介が駄目になる、って言いたいの?」


「別に~」



はぐらかされた。

でも私と祐太郎の別れに、涙はいらない。



友達なのだから、何度も会える。


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