ありふれた恋。
ケーキを食べ終えた陽介はさっさと、布団にもぐりこんだ。
食べ終えた2人分のお皿を流しで洗いながら、陽介の方を見る。
「ねぇ」
「ああ?」
「なんでもない」
臆病な私は肝心なことを聞かずに口を閉じる。
「気持ち悪いから、はっきり言えよ」
陽介の家には何度が泊ったことがあるが、私はいつも固い床で丸くなって眠る。
ベッドの上で一緒に眠ることを陽介が許さないため、仕方なく床で。
でも今日は誕生日で、少しくらいのわがままを聞いてもらってもバチは当たらないのではないか。
床で寝た翌朝は、腰が痛くて目を覚ます。
そして身体に毛布がかけられていることに気付いた時にはもう、陽介はいない。
陽介がかけてくれた毛布を抱きしめて私は朝が来たことを恨むのだ。
朝になれば私は高校へ、陽介は大学へ行かなければならない。
もし朝が来なければ、私たちは永遠に一緒にいられるのに。どうして"明日"を迎え入れなければいけないのか、その疑問を解決する術はない。