伯爵令妹の恋は憂鬱
今度はフリードのほうへと皆の視線が集まる。フリードは咳ばらいを一つすると、問い返した。
「……マルティナは昨日“勘当してほしい”と言ってこの屋敷を出ていった。だからもう俺の許可はいらないはずだ。それをわかっていて言いに来たのか?」
「そうです。私には、フリード様が本気で勘当したなんて思えませんし。何より俺自身が、フリード様とエミーリア様に認めてほしいですから」
淡々と言い切るトマスに、フリードとしては笑うしかない。
「……やっぱりお前は面白い男だよな。マルティナに愛想をつかされないように早くするんだな」
「はい」
「それと、俺は勘当することを了承はしていないからな。誰と結婚しようがお前は俺の妹だ」
「でもお兄様」
「お前の結婚相手が誰かぐらいで、評判の落ちるような伯爵家ではないよ。心配するな」
昨日はマルティナのために、何も言わずに送り出してくれたのだろう。
マルティナは兄の心遣いに感謝した。
愛されている。その安心感をくれたこの伯爵家を、マルティナは本当に愛していたのだ。