伯爵令妹の恋は憂鬱
「今日はありがとうございます」
頭を下げる二人には、割れんばかりの拍手が鳴り響く。
「……私、とっても幸せです」
主役の席についてから、うっすら涙を浮かべてマルティナがつぶやいた。
いつもはかわいいという印象の強い彼女だが、今日はきっちり化粧を施し、華やかなドレスに身を包んでいて、咲き始めの薔薇のように先を期待させる美しさだ。
「喜んでくれるならよかった。あんなに大きな口をたたいておいて、結局質素な式になってしまったから」
「ううん。とても素敵です。みんなが私たちのために用意してくれたんですもの」
マルティナも、ヴェールに自分で刺繍を入れた。そのヴェールをトマスが持ち上げキスをくれたときには、すべての努力を認めてもらえたような、言葉でいい表せない感動があった。あの時のとろけてしまいそうな気持ちを、マルティナは一生忘れることはないだろうと思う。
食事会はにぎやかに過ぎていく。
一番大騒ぎしているのが、クレムラート家の使用人たちだ。
「トマスっ、立派になりやがってぇ」
かつて同僚であった彼らは、「今日は無礼講でいいぞ」というフリードの言葉を受け、シャンパンで酔っ払っている。
給仕をしているメイドたちも、「すっかり雲の上の人になっちゃいましたねー」と茶々を入れては戻っていく。
トマスの脇で、普段は飲まないシャンパンを少しずつ飲みながら、それを見ていたマルティナは、ほうとため息をついた。
「トマスは人気者です」
「そんなことないよ」
「ううん。トマスの前だと、どんな身分の人も楽しそうなんです。私、いつもすごいなって思ってました」
「そう? マルティナも楽しい?」
笑顔で問いかけられ、マルティナの顔が真っ赤になる。
「あ、あたり前です」
「俺も楽しいよ。……幸せだ」
実のこもった声で言われて、マルティナはホッとする。