伯爵令妹の恋は憂鬱
十歳年下の伯爵令妹と結婚したトマスは、現在いろいろな人からの冷やかしの対象となっている。
会社であくびをしただけで、「トマスさん、新婚ですもんねー」とにやにやした笑顔とともに言われるし、取引のために酒場に寄れば「男の夢をかなえやがって」と常連客から小突かれる。
そのたびにトマスはぎこちない笑顔を浮かべ、「ははは」と笑ってごまかしていた。
下品な内容ではあるが、言ってる彼らに悪気はなく、むしろ羨望さえこもっていることは知っている。
だから冷やかされること自体は嫌なわけではない。
問題は、その冷やかしが的を射ていないことなのだ。
(……むしろ今は禁欲生活中だもんなぁ)
だがしかし、男の名誉とマルティナのためにそれは口に出すわけにはいかない。
笑顔ですべてを流し、トマスは会社へと戻る。
忙しさに身を任せているのが一番いい気晴らしだ。