伯爵令妹の恋は憂鬱
だがしかし、人は変わっていくのだ。
現に赤ん坊が生まれて、兄夫婦はその子にかかりきりになっている。
以前は必ず一緒に食事をとってくれた義姉とも全然顔を合わせられなかった。
(ふたりは新しい家庭を作っていく。……いくら広いお屋敷といったって、私は邪魔ものだわ)
考えれば考えるほど、自分の存在意義が見いだせなくなっていく。
マルティナが暗い顔をしているのに気づいて、ローゼは話題を変えた。
「明日、お仕事を終えたら少し散歩しましょう? 私、草花には詳しいんです。マルティナ様がお仕事している間に、この辺りを探検しておきますわね」
ローゼにも気を使わせてしまっているのが分かって、マルティナはますます自分が情けなくなる。
と、その時、ノックの音が響いた。
「誰?」
「トマスです。夕食の準備が整ったそうですよ」
「い、今行きます」
彼の声に、マルティナの心臓が跳ねる。気分が落ち込んでいたのもあって、早く顔が見たかった。
「あ、待ってください。マルティナ様」
慌てて扉を開けて出るときに、ドレスの裾に足を引っかけて転びそうになる。
「おっと」
よろけたマルティナを受け止めたのは、がっしりした腕と、ふわりとした感触だった。
顔のところに大きなクマのぬいぐるみの顔がある。