伯爵令妹の恋は憂鬱
エミーリアのこういったいじらしさに、フリードは時折、心底救われた気持ちになる。そして、そんなことを気にしなくてもいいから笑っていてほしい、と心の底から思えるのだ。
フリードは彼女の心労を減らすべく、わざと明るい調子で笑った。
「はは。……バカだな。これはそういうことを怒ってるんじゃないだろ。待っているのは一人じゃないって言ってるんだ」
「え?」
「我慢しているのはお腹の子も一緒ってことだよ。君はこの子と一緒に俺の帰りを待っていてくれ。……それにしても生まれる前から、この子は君のいいストッパーだな。我が奥方は、放っておくとどんな無茶でもやってのけるからな」
「ちょっとフリード!」
「本当のことだろう。俺は大丈夫だよ。昔と違う。君という家族がいるんだ。どんなことが起きても、孤独になどならない」
フリードはエミーリアの目元にキスをする。
気が強くいつも明るい妻の潤んだ瞳に、名残惜しさを感じてしまう。
「そんな顔するな。もっとキスをしたくなる」
「もうっ、今はそういうタイミングじゃないでしょ」
「わかってるよ。こんな冗談を言える自分に驚いている。……とにかく君はしっかり留守を守っていてくれ」