伯爵令妹の恋は憂鬱
3.不穏なお客様
帰りの馬車の中で揺られながら、とんでもないことになってしまった……とマルティナはひそかに落ちこんでいた。
(遺産整理のお仕事で来ているのに……。でもお客をもてなすのも仕事? リタ様が親しくしていた方なら、やっぱりちゃんとお迎えするべき?)
普段、社交とは縁のないマルティナにはさっぱりわからない。
「ねぇ、ローゼ。おもてなしってどうすればいいの?」
「大丈夫ですよ。先ほどの話が本当ならば別荘の使用人たちはお茶会には慣れているんでしょうし。帰ったらディルクに相談してみましょう?」
慰めるようにローゼがマルティナの手を握る。
「でも意外だわ。リタ様は厳格な方だったと夫に聞いていたんです。子供の頃のフリード様と遊ぶこともほとんどなかったって。そんな方が、近隣の貴族のお子様を招いてお茶会をしていたなんて、ちょっと不思議ですよね」
「そうね。……私もそう思う」
実際、マルティナの持っているリタの印象は、怖いの一語に尽きる。
それに、強引に話を進めるミフェルのことも、ほんの少し……いや、かなり苦手だなと思っていた。
馬車は三十分ほどで屋敷についた。
扉が開けられ、「どうぞ」とトマスが手を差し伸べてもらい、マルティナは地面に足を付けた。
その後、ローゼが降り立ち、トマスは荷物を降ろす。荷物をメイドに預けようとして、思い出したように袋の中を探った。