伯爵令妹の恋は憂鬱
「あったあった。はい、これはマルティナ様に」
トマスの手にあるのは、エミーリアに買ったものと色違いの髪飾りだ。
「これ、さっきの」
「ええ。ちょっと失礼しますねー」
トマスは笑顔のままそっとマルティナの髪を触る。普段子供にするように抱き上げられたり頭を撫でられたりはするが、髪をいじられるのは感覚的に違くてドキドキする。耳をほんの少しかすめる手、さらりと髪が持ち上げられ、トマスの指が頭皮に触れる。全く違うはずなのに、服を脱がされているような心もとない感覚が押し寄せてきて、マルティナは自分が真っ赤になっていくのが分かった。
「あれ、うまくつけられないな。ローゼ様、直してくださいよ」
しかしトマスのほうはあっけらかんとした様子だ。ローゼが脇からのぞき込んで、曲がったところを直す。
自分の頭の上でトマスの手とローゼの手が動く気配に落ち着かない。
「できた。かわいらしい髪飾りですね。マルティナ様、よくお似合いですわ」
「本当?」
自分では見えないが、髪飾りの可愛らしさは自分で選んだのだから知っている。トマスが選んでくれた色が、髪色に映える青だったことがさらに嬉しかった。
「あ、ありがとうございます」
嬉しすぎて顔が緩んでしまっている。とても見せられなくて、口元を手で覆った。