伯爵令妹の恋は憂鬱


「街って、アンドロシュ子爵領へ行ったんですか。私はてっきり途中で寄った街のほうかと」

執務室のディルクのもとへと行ったローゼとマルティナは、怪訝そうな表情のディルクに迎えられた。

「あの、そこでアンドロシュ子爵家の方と会ったんです。年は私より少し上くらいで、双子で。……リタおばあさまと交友があったらしく、明日のお茶の時間にここに来たいと言っておられました」

マルティナがおずおずと報告すると、ディルクは記憶をたどるように顎に手を当ててしばらく黙っていた。

「双子ならばエーリヒ様の末のお子様たちですね。ふたりともに十九歳で、お嬢さんのほうは近年よく夜会で見かけます。リタ様と交友があったとは知りませんでしたが。……カスパーに聞いてみましょうか」

ディルクがカスパーを呼びつけて問いただすと、意外なほどあっさりと答えは返ってきた。

「ええ。この別荘から一番近い領内貴族はアンドロシュ子爵家ですから。大旦那様が生きておられたときから交流はありました。リタ様は三年ほどに街でミフェル様やアンネマリー様と出会い、子爵家のお子様だということで何度かお茶に招いておられましたよ」

「……本邸には全く顔も見せなかったのにか」

ディルクが若干の嫌悪感をあらわにすると、カスパーも表情は変えないまでも言い返してきた。
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