伯爵令妹の恋は憂鬱
着替えを終えたフリードは、エミーリアに微笑みを向けて部屋を出る。すると、扉の前に軽装を整えたトマスが待っていた。
「フリード様、私がお供します」
大方アントンあたりが頼んだのだろう。トマスならば確かに馬の扱いにも慣れているし、無理を通すような性格ではない。危険な夜間の移動には適した人選と言える。
そこで、エミーリアがガウンを羽織って部屋の外に出た。
「エミーリア、寒いから出てこなくていい」
妻のそんな恰好をほかの誰にも見せたくないという思いだったが、エミーリアは服装のことなど少しも気にしていないようだ。
「お見送りくらいさせてちょうだい。この子もそう言っているわ」
子供を盾にとられると、フリードもNOとは言えない。どうやらこの子はお互いにとって、良くも悪くもキーパーソンとなるらしい。
エミーリアは満足げに一階のホールまでついてきて、最後にトマスに念押しをした。
「トマスも気を付けて。フリードが無茶をしないようにちゃんと見張ってて」
「もちろんです。私もエミーリア様にお願いが。マルティナ様はぐっすりお休みですので、外出する旨を伝えていないんです。明日、詳しく説明して差し上げてください」
「わかったわ」
心配そうなエミーリアとアントンに見送られながら、フリードとトマスは、薄暗い夜道を走り出した。