伯爵令妹の恋は憂鬱
「わかりました」
「さ、私たちはまずは朝食よ」
「あ、お義姉さま、ゆっくり動いてくださいね」
身重の義姉を支えるつもりで、マルティナはエミーリアの腕を支える。
すると、エミーリアはふふ、とほほ笑んでマルティナの肩に頭をのせた。
「こうしてみるとずいぶん背が高くなったわね、マルティナ」
「そう……ですか?」
「ええ。私とそう変わらないじゃないの。髪も伸びてすっかり綺麗になったわ。お嫁に行くのもそう遠くないわね」
「お嫁になんて行きません」
反射的に硬い声が出てしまい、マルティナはハッとする。しかしエミーリアは特に気にはしていないようだ。
「私もそう思ってたわよ。どこかの貴族の奥方としてずっと屋敷にいるなんて面倒くさいし、社交だって嫌で嫌で仕方なかった。でも、どこに出会いが転がっているかなんてわからないわよ。私、今とても幸せよ。マルティナにもこんな幸せが訪れたらうれしいわ」
「……お兄様はお義姉様を愛してらっしゃいますもの」
「ふふ。ありがとう。そうね。フリードに会えたのが最大の幸運だったんだわ」
お腹をさするエミーリアは聖母マリアとも思えるような慈愛に満ちた表情をしている。
母親になると、人は変わるのかもしれない。元気でお転婆な義姉も好きだが、今の彼女はそれに穏やかな優しさが加わり、マルティナはとても素敵だと思っている。