略奪連鎖
 それが孝之の嘘だとは信じたくなかった。

 けれど休みであることが確定している以上、孝之の言葉も嘘が確定していた。

 夜勤の日は深夜0時前後に孝之からメールが届く。その夜も『ちゃんと鍵かけたか確認してね。おやすみ』といつも通りメールは届いた。

 だから私も『おやすみなさい。仕事頑張ってね』と返信したけれど、その夜は一睡も眠れず、気付けば東の空が白み始めていた。

 孝之が帰宅したのは午前7時頃だった。

 夜勤明けの帰宅と違わぬ時間帯。

 キッチンで朝食の用意をする私に「ただいま」と頬にキスをして、シャワーを浴びる孝之に変わった様子は見当たらない。

 思い切って「昨日どこにいたの」と訊いてみようかと思いもしたけれど、怖かった。

 平然と「仕事」と嘘をつかれれば、私たちが紡いできた信頼や愛情が綻んでしまいそうな気がしたからだ。

 これはきっと何かの間違いだ。きっとそう。何度も疑心を払拭しようと自分に言い聞かせた。
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