略奪連鎖
「調査結果報告書です」

 20ページに渡って綴られた報告書には孝之と小柄な女が肩を並べて歩いている写真が数枚、女が暮らすマンションに二人で入って行く後姿、数時間後、部屋から孝之が出て来る姿が日時入りで貼り付けられていた。

 興信所を訪れたのは1ヶ月前だった。

 5日間の調査依頼で約60万。

 これが安いのか高いのか判断がつかなかった。けれど、こちらが指定した日程と時間帯から4時間の追跡調査を5日申し込み、もしも黒だった場合は相手女性の素性調査を含めた金額だった。

 調査員たちは慣れているのだろう。

 依頼主である私が絶句しても、涙を流しても、動じる様子はなく、テーブルに用意されていたティッシュを差し出した。

 その事務的な対応に救われた。慰めの言葉なんて役にも立たない。

「これって黒っていうことですよね」

「残念ながらそういうことですね。室内の調査はさすがにできませんから一線は越えていないと主張される可能性はあると思います。でも特定の女性と複数回に渡り密室で一定時間を過ごせば、一般的には不倫であると判断される可能性が高いでしょう」

 銀縁眼鏡をかけた中年の男性調査員に淡々とした口調で告げられた。
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