略奪連鎖
 私の何がいけなかったのか。

 何が不足して、何が気に入らなかったのか。

 何度孝之に訊ねても「俺が悪いんだ。塔子は何ひとつ悪くないよ」としか言わなかった。

 しかも「塔子を嫌いになったわけじゃないんだ」と、何のフォローにもならない陳腐な台詞が私の傷口を抉った。

 離婚に応じたのは約1年後、私が31歳の誕生日を迎えた直後だった。

 納得して離婚に応じたわけじゃない。

 そうせざるを得なかった、ただそれだけだ。

 家に戻らなくなった孝之をただ一人、待ち続けるのは四肢を引き裂かれるほどにつらかった。

 脅しを兼ねて高額な慰謝料を請求すると言えば「わかった」とそれにも素直に応じた。

 だから裁判で慰謝料を巡って争う理由が何もない。

 後はいつ帰るとも知れぬ孝之をひたすら待ち続けるか、それとも離婚に応じるか、その二つしか選択肢がなかった。

 両親からは「もう諦めたほうがいい。まだ塔子は若いんだからやり直せる」と説得され、友達からも「気持ちはわかるけど、仮に戻って来たところで孝之さんのこと許せないでしょ」と正論を向けられた。

 この1年で私はぼろぼろにやつれ果て、肌は油分が抜け、髪は艶を失い、目は老婆のように落ち窪んでしまった。
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