略奪連鎖
 離婚届に判を押したその日、孝之に会った。約8ヵ月ぶりだったと思う。

 枯れ枝のように生気のない私の姿を見て「ごめん、塔子」と抱きしめた彼の気持ちが私にはさっぱりわからなかった。

「孝之のせいだよ」

 ごめん、本当にごめん、と涙する孝之に「泣きたいのは私のほうでしょ」と言った。

 泣くほど私に申し訳ないと思うなら、なんで不倫なんかしたの。

 あんたなんか死ねばいいのに。

 最低。最悪。地獄に堕ちろ。

 思いつく限りの罵声を浴びせた。

 1000万の慰謝料は不倫の相場から換算すれば破格の金額らしい。この金額が孝之なりの誠意と私に向けた最後の優しさだったのだろう。

 でも、私が負った心の傷と無駄にした時間は1000万どころの話じゃない。というより、お金でどうこう解決できる問題じゃない。

 けれどこの世の中は何かあればお金で解決するしか方法がなく、これ以上の慰謝はどうやらないらしい。

 謝罪の言葉と1000万。

―――それが私に残った全てだった。
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