略奪連鎖
　このベッドで孝之と彼女は抱き合っているのだろう。当然、裸で。

　想像したくないのにベッドの存在が生々しく目に映る。これまでは噂レベルでしかなかった彼女の存在を孝之の部屋を流れる空気の中に感じた。

「ごめんね。部屋が散らかってたんだ」

「彼女の私物を片付けてたんですか？」

　暗くならないよう、わざとらしく明るい声で言った。孝之は否定も肯定もしなかった。けれどそれは認めているのと同義でもあって、私はお門違いながらも独りよがりに傷ついた。

「体調はもういいの？」

　ラグの上に置かれたクッションに座ってアイスティーを口にしていた。食事が摂れなくなるほど失恋を拗らせていた私だったのに３ヶ月後には新しい恋の病に陥っていた。

　その相手が孝之だというのは多分、本人も気付いているはずだった。

「はい、もう大丈夫です」

「良かった。でもあの時は驚いたよ」

「私も驚きました」

　笑って見せる。

「けど神崎さんに抱きつかれたのが一番驚いたな」

　孝之が思い返すようにふっと目を細めた。日頃なら「もうその話はやめてくださいよ」と照れ隠しにおどけるところなのに、その日はそんな気分にはなれず目を伏せた。

　とろみを孕んだ沈黙が訪れる。息苦しさに耐えかねて、やっぱり帰ろうかな、そう告げるつもりで顔を上げると視線が小さくぶつかった。孝之は僅かに目線を下げ、

「知ってると思うけど彼女がいるんだ」
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