ワンダーランドと雪白姫(童話集)
フーリィ
【フーリィ】



 フーリィには憧れのお姫様がふたりいました。

 一人目は継母たちからのいやがらせに耐え、舞踏会で王子様に見初められた灰かぶり姫。もう一人はゴミ屋敷出身で作家でもあるお掃除姫です。

 フーリィは雑巾を胸に抱き締め、窓の外を眺めながら、隣国のお姫様たちに想いを馳せました。

「ああ、わたくしも憧れのお姫様たちのように、素敵な王子様とお城で暮らせればいいのに……」

 というのも、フーリィもふたりのお姫様と同じように、継母やその連れ子の姉たちにひどい仕打ちを受け、つらい日々を送っていたのです。

 昔は美しかった赤毛はほこりですっかり汚れ、着ている服はつぎはぎだらけ。靴は穴が開き、手にしているのはいつも雑巾か箒。手はすっかり荒れてしまい、水仕事の度にじんじんと痛むのでした。

 その痛みを紛らすため、フーリィはいつもこうやって窓の外を眺め、幸せな未来を想像していました。


 そんなフーリィの元へ、着飾った継母たちがやって来て、こう言いました。

「フーリィ、わたくしたちはこれからお城の舞踏会に行きます。戻るまでにしっかり掃除を終わらせておくのですよ」

「はい、お義母さま!」

 窓の外を眺めていたフーリィは勢い良く振り返りましたが、その拍子に、床のバケツをひっくり返してしまいました。
 それを見た継母たちは、口元に手をあて高らかに笑います。

「いつもいつも、あなたは間抜けですね! それじゃあいつまで経ってもお嫁に行けず、一人寂しく老いていくことになりますよ!」

 そうなのです。フーリィは昔から少し抜けているのです。
 本当のお母様から「フローラ」という可憐な名前をもらったのに、継母は間抜けな様子を見て「バカ者、おろか者」という意味を持つ「fool」から「フーリィ」というあだ名をつけてしまったのでした。

 それに全く気付かず、自分の名前から取ったものだと思い込んでいるフーリィは、手の痛みを紛らすため「床にぶちまけたのは、きっと水ではなくバラの花びらなのだわ!」と思い込むのでした。



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