ワンダーランドと雪白姫(童話集)
魔女がステッキを一振りすると、つぎはぎだらけの服が美しい純白のドレスに、壁で巣を張っていた蜘蛛が青毛の馬に、先ほどまでフーリィが使っていたバケツが馬車に、庭に立っていたカカシが従者に変わったのです。
ですが、ここでひとつ問題がありました。
フーリィが突然その場にしゃがみ込んでしまったのです。
「魔女様、足がとても痛いのです。ガラスの靴とは、こんなに硬くて痛いものなのですか?」
そうなのです。布の靴しか履いたことがなかったフーリィは、硬いガラスの靴が痛くて堪らなかったのです。
「フーリィ、あなたが好きな灰かぶり姫も、このガラスの靴を履いて、王子様と華麗に踊ったのです。しかしあなたがどうしてもというのなら、エナメルや布の靴に変えることもできます。靴擦れを起こして王子様と踊れないことを恐れているなら、そうしたほうがいいでしょう」
フーリィは悩みました。
足が痛くて、王子様とダンスどころではありません。しかし憧れの灰かぶり姫もこの靴を履いたのだと思うと、どうしても履き替えることができないのです。
灰かぶり姫は可憐なドレスとガラスの靴で王子様と踊り、お城から帰るときにガラスの靴を落としました。王子様は国中探して、そのガラスの靴がぴったり合う女性を見つけたといいます。
素敵でロマンチックな話だと、フーリィは思っていました。
ですが落としたのがエナメルや布の靴ならどうでしょう。なんだか恰好がつきません。
悩んだ末フーリィはエナメルの靴ではなく、憧れの灰かぶり姫と同じガラスの靴で舞踏会へ行くことにしたのでした。
しかし常に痛む足に気を取られ、魔女が「魔法は十二時で解けてしまうので、それまでに帰らなければなりませんよ」と言ったのを、うっかり忘れてしまったのでした。