ワンダーランドと雪白姫(童話集)
フーリィがお城に足を踏み入れると、そこにいた誰もが感嘆の声を上げました。
魔法で整えられた赤毛はとても美しく、純白のドレスによく映えました。痛みを我慢して履いたガラスの靴もみんなに羨ましがられ、王子様からダンスを申し込まれました。
フーリィはすっかり有頂天になり、王子様とのダンスを楽しみました。
ダンスを終えると王子様はフーリィの手を取り、こう言いました。
「あなたは本当に美しい。僕が尊敬するふたりの王子も、こうして舞踏会で美しい姫と出会ったのですよ」
王子様が言う「ふたりの王子」が、灰かぶり姫とお掃除姫が結婚した王子様だということが分かり、フーリィはさらに気分が良くなりました。
そして自分も灰かぶり姫とお掃除姫に憧れているということを力説しました。
その迫力に、王子様は少し驚きましたが、こう言いました。
「灰かぶり姫もお掃除姫も魔女が協力していたと聞きました。それに感銘を受け、僕は魔女組合に寄付をすることにしました」
「それは素晴らしいことですね!」
「力のある魔女がもっと人々を助けてくれるよう、僕は願っています」
それを聞いてフーリィははっとしました。
先ほど魔女が、魔法は十二時で解けてしまうと言っていたことを思い出したからです。
時計を見ると、十二時はもうすぐです。このままでは屋敷に帰り着く前に魔法が解け、馬や馬車は、元の姿――蜘蛛やバケツやカカシに戻ってしまいます。
王子様とはまだまだ話したいことがたくさんありますが、お城の中で元の姿に戻るわけにも、屋敷に着く前に魔法が解けるわけにもいきません。
フーリィは王子様に時間がないことを告げると、大急ぎでお城を出て、外へと続く長い階段を下りて行きます。
ですが、お城の外に停まっていた馬車に飛び乗り、動き出したところで、フーリィは思い出しました。
王子様に、自分の名前や住んでいる場所を教えるのを、すっかり忘れていたのです。
これでは再び王子様に会うことができません。
残った手はひとつだけです。憧れの灰かぶり姫と同じように、ガラスの靴を残して行けば、王子様はその靴にぴったり合う女性を国中から探し出してくれるに違いありません。
フーリィは急いでガラスの靴を脱ぎ、動き出した馬車の窓から、お城の階段に向けて放ったのです。
ガラスの靴は大きな放物線を描き、フーリィが先ほど通った地面の上に落ちました。
しかし靴はガラスでできていたため、激しい音を立てて砕け散ります。
焦ったフーリィは、すぐにもう片方の靴も投げましたが、硬い地面の上で同じように砕け散ってしまいました。
そのあとフーリィは、魔法が解ける前に無事屋敷に帰り着くことができましたが、ガラスの靴を残すことができなかったので、王子様がフーリィを探しに来ることはありませんでした。
(おわり)