ワンダーランドと雪白姫(童話集)
雪白姫
【雪白姫】




 あるところに、雪のように白く美しい、雪白姫というお姫さまがいました。

 雪白姫はうつくしいだけでなく、とてもやさしくはたらき者で、掃除も料理も得意。歌や踊りも上手で、たくさんの友だちにかこまれ、みんなに愛され、幸せにくらしていました。

 ですがそんな雪白姫をきらっているひとがひとりおりました。雪白姫の継母です。

 継母は王さまの次のお妃さまとしてお城にやって来るまでは、となりの国のお姫さまでしたので、お肌のお手入れとおしゃれしかできませんでした。
 今まではお肌のこととうつくしいドレスのことだけを考えて毎日を過ごしてきたというのに、王妃さまになってからというもの、継母はいつも雪白姫とくらべられ、いやな思いをたくさんしてきたのです。

 継母は家事や踊りは得意ではありませんでしたが、お肌のお手入れやおしゃれでは雪白姫に負けたくないと思っていました。


 しかしある日、魔法の鏡に「この世で一番うつくしいのはだれですか?」と聞いてみたところ、鏡は「雪白姫です」と答えたので、継母はたいそう怒りました。

 そして自分がこの世で一番うつくしい女性になるため、雪白姫をころしてしまおうと思いました。


 ですが、ナイフとフォークより重いものを持ったことがない継母は、剣を持つことができません。
 悩んだ継母は、雪白姫に毒を飲ませることにしました。



 大きくて赤々としてつやがある、とてもおいしそうなりんごに毒をぬった継母は、それを早速雪白姫のところに持って行きました。

「さあ雪白姫、とてもおいしいりんごを持ってきました。食べて感想を聞かせてください」

 ですが雪白姫はりんごをうけとりません。

「申し訳ありません、お義母さま。わたくしはりんごが食べられないのです」

 継母はおどろきました。りんごが食べられないというひとに会ったのは初めてだったからです。

「どうしてこんなにおいしいものが苦手なのですか?」

 継母が聞きます。

「実はわたくしが小さい頃、お父さまが食べさせてくれたりんごが、とてもすっぱかったのです。それからというもの、りんごの味、におい、かじったときのがりりという音、色、形、すべてが苦手になってしまったのです」

 雪白姫の告白を聞いて、継母は悩みました。これでは毒を飲ませることができません。



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