片想いウイルス(短編集)
あまのじゃく
【あまのじゃく】
二月十四日。バレンタインデー、当日。
今日は平日だというのに、突然彼女が部屋を訪ねて来た。
「仕事帰りにスーパー寄ったらじゃがいもとにんじんと玉ねぎとカレールゥが安かったの。これはもうカレーを作れってことよね。でも一人でカレー作っても余らしちゃうし、でも大きな鍋で作ったほうが絶対おいしいから付き合ってよ」
とのことらしいが、どうだろう。いつもはオレが呼んだときにしか来ないし、一緒に夕飯を食べるときは彼女の部屋だというのに。今日に限って訪ねて来るなんて、もしや……。
浮かんだ考えを確かめるため、彼女が野菜を切っている隙に、置いてあったバッグを覗いてみたら、あった。赤い包装紙とピンク色のリボンがついた箱状のものが。間違いなくこれは、このあとオレに渡されるであろうチョコレートだ。
察していることがバレないようバッグから離れ、元の位置に戻って、何食わぬ顔でそのときを待つことにした。
が。カレーを作り終わっても、それを食べ終わっても、後片付けが済んでも、彼女はいつも通り。通常運転。いつまで経ってもオレの元にチョコはやって来ない。
彼女の様子を窺い、まだかまだかと考えそわそわしていたら、つい「チョコは?」と。口をついて出てしまった。
彼女は無表情でこちらを見たあと、はっきりした口調で「ないよ」と言い、席を立ってすたすたとトイレに向かう。
ああ、やってしまった、と思った。天邪鬼な彼女は、もう普通にチョコを渡してはくれないだろう。
オレは床に正座して背筋を伸ばし、謝る準備をして、彼女が戻って来るのを待った。
(了)
二月十四日。バレンタインデー、当日。
今日は平日だというのに、突然彼女が部屋を訪ねて来た。
「仕事帰りにスーパー寄ったらじゃがいもとにんじんと玉ねぎとカレールゥが安かったの。これはもうカレーを作れってことよね。でも一人でカレー作っても余らしちゃうし、でも大きな鍋で作ったほうが絶対おいしいから付き合ってよ」
とのことらしいが、どうだろう。いつもはオレが呼んだときにしか来ないし、一緒に夕飯を食べるときは彼女の部屋だというのに。今日に限って訪ねて来るなんて、もしや……。
浮かんだ考えを確かめるため、彼女が野菜を切っている隙に、置いてあったバッグを覗いてみたら、あった。赤い包装紙とピンク色のリボンがついた箱状のものが。間違いなくこれは、このあとオレに渡されるであろうチョコレートだ。
察していることがバレないようバッグから離れ、元の位置に戻って、何食わぬ顔でそのときを待つことにした。
が。カレーを作り終わっても、それを食べ終わっても、後片付けが済んでも、彼女はいつも通り。通常運転。いつまで経ってもオレの元にチョコはやって来ない。
彼女の様子を窺い、まだかまだかと考えそわそわしていたら、つい「チョコは?」と。口をついて出てしまった。
彼女は無表情でこちらを見たあと、はっきりした口調で「ないよ」と言い、席を立ってすたすたとトイレに向かう。
ああ、やってしまった、と思った。天邪鬼な彼女は、もう普通にチョコを渡してはくれないだろう。
オレは床に正座して背筋を伸ばし、謝る準備をして、彼女が戻って来るのを待った。
(了)